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第605号 2009(H21).02発行

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農業と科学 平成21年2月

本号の内容

 

 

コシヒ力リの全量基肥肥料施用による白未熟粒の発生抑制

愛知県農業総合試験場 作物研究部 水田利用G
主任 杉浦 和彦

Introduction

 近年,高温による水稲玄米の外観品質低下が,全国的に問題となっている。なかでも愛知県は夏期の気温が高い地域であり,出穂後20日間の平均気温が28℃を上回る年次もある。このため,登熟期が7月下旬から8月上中旬と最も気温の高い時期にあたるコシヒカリにおいて,白未熟粒増加による品質低下が問題となってきている。特に,2001年以降は1等米比率が40~50%台と低迷し,早急に対策を講じる必要性に迫られている。

 高温により発生する白未熟粒は,白濁の部分により乳白粒,背白粒,基部未熟粒に分類されている。乳白粒は過繁茂による籾数過多との関連が深いといわれている。また背白粒,基部未熟粒は乳白粒に比べ気温への依存度が高いといわれているが,登熟期の窒素栄養凋落も一因であるとの指摘があり,穂肥施用時期を慣行より遅らせたり,増肥したりすることにより品質向上効果が認められている。このため,白未熟粒を減らし整粒歩合を向上させるには,生育前半の過繁茂を抑え,登熟期に十分な窒素施肥を行う施肥体系が有効であると考えられる。しかしながら,本県で、は水田作経営体の規模拡大に伴い,省力化の観点から全量基肥肥料が広く普及しており,追肥による後半肥効の増強対策を導入することは困難である。従って,被覆尿素肥料を用いて生育前半の肥効を抑え,かつ生育後半の肥効を高めた肥料によりコシヒカリの白未熟粒軽減効果を検討したので,その結果を紹介する。

2. Methods

 試験は愛知県農業総合試験場作物研究部水田利用グループ内ほ場で,2005,2006年に実施した。品種はコシヒカリを用い,供試した肥料は表1に示したとおりである。試作した配合肥料(以下,改良肥料)は,生育期の高温による過繁茂を抑え登熟期の肥効を高めるため生育前半の肥効を極力抑えた配合とした。また,対照肥料として,本県でコシヒカリ用全量基肥肥料として流通している配合肥料(商品名:側条エース,以下,慣行肥料)を用いた。施肥法は側条施肥とした。

 移植時期は2005年は4月26日,2006年は4月27日に行い,栽植密度は21株/㎡とした。施肥窒素量は,5kgN/10aを基本とした。
 外観品質はサタケ製穀粒判別器RCQ110を用い判定し,乳白粒,基部未熟粒,腹白粒の合計を白未熟粒とした。玄米タンパク質含量はニレコ製近赤外分光光度計6500HONを用い測定した。

3. results

(1)被覆尿素肥料の窒素供給パターン

 今回用いた肥料について,窒素供給量のシミュレーションを行った(図1)。改良肥料は速効性肥料及びLP40の配合割合が少ないため,幼穂形成期までの窒素溶出量は極めて少なかった。また,穂肥に相当するシグモイド型被覆尿素肥料からの窒素溶出は改良肥料が5日ほど遅れた。窒素溶出量のピークは,慣行肥料が7月5日頃,改良肥料が7月10日から15日頃となった。7月中旬以降から登熟期間中は改良肥料の窒素溶出量が多かった。

(2)茎数,葉色の推移

 茎数は,生育前半の窒素溶出量が多い慣行肥料で初期生育が旺盛で,最高分げつ数は600本/㎡を超えた(図2)。

 葉色については,6月下旬までは肥料による差は認められなかった。その後7月上旬から徐々に改良肥料の葉色が高くなり,8月初めにはSPAD値でおよそ3程度の差が認められた。登熟中期である8月10日においても慣行肥料に比べ葉色は高く推移した(図3)。

(3)収量,収量構成要稈

 稈長,穂長,倒伏程度については,肥料による差がなかった。改良肥料の有効茎歩合は高かったが,穂数は少なく,㎡当たり籾数も少なかった。しかし,千粒重は大きく,登熟歩合も高かったため,肥料による収量差は認められなかった(表2)。

(4)品質

 改良肥料は乳白粒,基部未熟粒が減少し,白未熟粒の発生は抑制された。しかし,玄米タンパク質含量は高くなる傾向が認められた(表3)。

 1次枝梗籾割合は,慣行肥料に比べ改良肥料が高かった(図4)。

 また,穂揃い期の葉色と白未熟粒割合には負の相関が認められた(図5)。

Consideration

 改良肥料は前半の肥効を極端に減らしたため,慣行肥料に比べ茎数が少なく推移した。生育前半に分げつを過剰に増やすことがなかったため,有効茎歩合は向上した。また,穂数も少なくなったため,㎡当たり籾数も抑制することができた。籾数の減少により,頴花同士による養分競合は緩和され,千粒重,登熟歩合が増加したと考えられる。しかしながら,本試験での㎡あたり籾数は,改良肥料では慣行肥料に比較して減少しているものの,30,000粒/㎡を超えており決して,少なくはない。依然として籾数が過剰である問題は残るが,改良肥料の窒素成分割合が速効性肥料,LP40がともに10%という低い配合割合から考えても,これ以
上生育前半の肥効を減らすことは困難であり,この点については今後の課題である。

 葉色に関しては,慣行肥料に比べ改良肥料は出穂後の葉色が高く維持されていた。葉色については,穂揃い期の葉色が高いと背白・基部未熟粒の発生が少ないとされている。本試験結果も穂揃い期葉色と白未熟粒割合には負の相関が認められていることから,白未熟粒の発生を抑制するためには穂揃い期における葉色の維持が有効である。
 枝梗及び穎花の退化防止には出穂前20~18日前の窒素追肥が効果的といわれている。改良肥料の窒素溶出パターンを見ると,出穂20日前となる6月30日までの溶出量は非常に少なく,その後慣行肥料より遅れて被覆尿素肥料の溶出が始まっている。このため慣行肥料に比べ,枝梗及び穎花が退化しやすい栄養条件となっている。穎花や枝梗の退化は,1次枝梗よりも2次枝梗が退化する事が多いことから,改良肥料は2次枝梗割合が減少したと考えられる。2次枝梗に比べ1次枝梗は白未熟粒の発生は少ないことから,2次枝梗の減少により品質が向上したと推察される。

 生育後期の肥効を高めることは,玄米タンパク質含量を増加させる懸念があるが,今回の試験でも慣行肥料に比較して改良肥料で高くなった。玄米タンパク質含量の増加は食味を低下させることが知られており,生産現場でも玄米タンパク質含量を抑制するために窒素施用量を減らす取り組みが進められている。しかし,整粒歩合の低下に伴い食味は低下することから,食味の向上を目的として生育後期の肥効を控えることは,かえって食味を低下させることになりかねない。従って,本県のコシヒカリのように登熟期間が高温である場合は,必要以上な穂肥減肥を慎むべきであり,今後,高温登熟障害の助長される気象条件が続くことを前提とすれば,本試験で用いた改良肥料のように生育後期の窒素施肥に重点を置いた施肥体系に変更していくことが,白未熟粒抑制対策としても有効であると考える。この結果を受け,今回試験を行った改良肥料は平成20年度から「側条ネオエース2号」という商品名で市販化されている。

5. Conclusion

 白未熟粒の発生は登熟期の高温が直接的な引き金であろうが,その背景には様々な要因が複合的に作用していると考えられる。そのため,高温登熟障害対策についても単一の技術で克服できるものではないと考えられる。現在,本試験で示したような施肥対策のほか,土壌管理技術や水管理技術による白未熟粒抑制対策も試みている。一方,各地で高温登熟に強い品種の育成も行われている。今後は,白未熟粒発生メカニズムの解明を進めるとともに,こうした複数の技術を複合的に組み合わせ,一刻も早く高温登熟障害対策技術の確立を
していくことが緊急かつ重要な課題であろう。

References

●井上健一.高温のイネ生産への影響と技術的対策-福井県の場合-
 日作紀72(2),440-445(2003)

●水稲高温対策連絡会議対策推進チーム.
 稲の高温障害の克服に向けて(高温障害対策レポート).農水省(2006)

●杉浦和彦ら.愛知県における2007年夏季の高温の影響と今後の課題
 日作紀77(1),370-371(2008)

●寺島一男ら.1999年の夏期高温が水稲の登熟と米品質及ぼした影響
 日作紀70(3),449-458(2001)

●松崎昭夫.穎花の退化部位とその原因
 稲作大百科Ⅲ基本技術/生育診断.(農文協編).農文協.東京.P310-315(1990)

●若松謙一ら.鹿児島県における水稲登熟期間の高温が玄米品質に及ぼす影響
 日作九支部70(1),10-12(2004)

●若松謙一ら.水稲登熟期の高温条件下における背白米の発生に及ぼす窒素施肥量の影響
 日作紀77(4),424-433(2008)

 

 

サトイモ専用肥料による硝酸態窒素溶脱抑制

愛媛県農林水産研究所 環境保全室
大森 誉紀
松本 英樹*
(*:現 愛媛県南予地方局産業経済部産業振興課)

1.愛媛県におけるサ卜イモの生産について

 愛媛県における平成17年産のサトイモ生産実績は,栽培面積406ha,出荷量4,080tであり,作付面積では全国13位,出荷量では同7位である。愛媛県農林水産研究所では,子芋,孫芋を食用とし,粘性な肉質の「愛媛農試V2号」(写真1)と,親芋,子芋を食用と筍芋より子芋の商品性が高い「媛かぐや」(写真2)の新品種開発や,水回転換畑等の重粘土壌でも収穫可能な小型のー工程サトイモ収穫機(写真3)を民間企業と共同で開発するなど,県内サトイモ産地のブランド確立や地域特産品目の育成等を支援しているところである。

 県内でのサトイモの主産地は,燧灘に面した県東部地域に集中しており,県内栽培面積の約57%を占めている。この地域は,四国山地から吹き降ろす通称「やまじ風」と言われる局地風が常発するため風に強い根菜類が栽培されており,サトイモは地域の基幹作物である。サトイモは連作を嫌うため,この地域では水稲と交互に,またはサトイモ-ヤマノイモ-水稲のローテーションにより水回転換作物として栽培されている。転作面積は水田面積の4割を越え,その多くでサトイモが栽培されている。

 ところが,平成12年の地下水概況調査で,この地域から環境基準値を超えた硝酸性窒素を含む地下水が検出され,その後の調査によって,この地域は水田地帯であるものの透水性のよい扇状地に立地していることから,転作作物に使用された肥料等が地下水中硝酸性窒素を高める原因のひとつになっていること等が明らかになった。
 そこで,サトイモの肥料吸収パターンに適合するよう溶出パターンの異なる緩効性肥料を組み合わせてサトイモ専用肥料を作成し,サトイモによる施肥窒素利用率を向上させることで,硝酸態窒素の溶脱抑制を図った。

2.専用肥料の効果

 2003年に基肥-追肥体系(基肥15kgN/10a,追肥5kgN/10a 有機質肥料で3回分施)で栽培した時のサトイモの養分吸収量データを基に,サトイモの窒素吸収特性に適合するよう,緩効性肥料を配合し専用肥料を試作した。配合割合は,IB肥料:10%,LPS80:7%,LPS120:20%,LPS160:5%,NPKロング100:35%,リン安:3%,重焼リン:14.5%,硫加:5.5%(いずれも重量比)で,肥料の成分含量は窒素23%,リン酸6%,加里7%である。
 この試作した肥料を用い,2006年に愛媛県農業試験場の圃場(花崗岩を母材とした中粗粒灰色低地土)で栽培試験を行った。窒素施用量は10aあたり30kgで全量基肥施肥とした。栽植密度は2400株/10a(畝幅120cm,株間35cm),3月下旬に定植し,6月上旬にマルチ除去および土寄せを行った。この肥料からの窒素溶出量は,サトイモの成長が旺盛で窒素吸収量が多くなる時期に多くなる特性を示したことから,サトイモの肥料吸収パターンに適合した肥料であると考えられた(図1)。

 収量は,専用肥料の標準量施肥で慣行施肥に比べ多く,窒素施用量を2割削減しても慣行施肥とほぼ同等であった(表1)。窒素吸収量は,専用肥料減肥で慣行と同程度であり,専用肥料標肥では慣行よりやや多かった。このことから,慣行施肥量では慣行栽培の基肥+追肥体系に比べ窒素吸収量が多くなり収量も多くなった。

 硝酸態窒素の溶脱量は,慣行施肥に比べ専用肥料減肥では明らかに少なかった。専用肥料を減肥して調査しているが,窒素溶脱量はそれ以上に少なく,専用肥料利用による溶脱抑制効果がみられた(図2)。

 これは6~8月の硝酸態窒素溶脱量は慣行施肥に比べ専用肥料減肥では半分以下であることから,専用肥料ではサトイモによる窒素利用率が高く,慣行施肥に比べ降雨の多い時期の硝酸態窒素溶脱量を抑制できるためと思われた。

 肥料費は,慣行施肥で27,855円であり,専用肥料減肥で26,301円とほぼ同等である(表2)。専用肥料標肥ではこれらよりもやや高くなるが,収量が多くなるので所得は多くなるものと期待できた。
 また,専用肥料を用いたサトイモ栽培では肥料を全量基肥施肥するため,追肥作業は不要であり,施肥関連作業の内の13%(8時間)が省略でき,省力的な栽培法であると考えられた(表2)。

3.今後の取り組み

 サトイモ専用肥料を用いた全量基肥施肥により,慣行施肥体系と同等の収量を維持しつつ硝酸態窒素の溶脱量を抑制することができた。しかし,全量基肥施肥でも6月以降の硝酸態窒素溶脱量は多く,施肥窒素の78%に相等する18.5kgN/10aが溶脱していた(図2)。

 これは,定植時に畝を被覆していたマルチを除去し,マルチ除去以降2ヶ月間で年間降水量の半量に相当する潅水を行なうため,畝内の硝酸性窒素を洗脱しているものと思われた。
 イモ形状の丸芋化と肥大促進のために,6月にマルチを除去し土寄せする体系が一般的であるが,マルチを除去しない栽培法を併用することにより硝酸態窒素の溶脱抑制効果が高まり,施肥窒素をさらに有効に利用できるものと思われた。この栽培法ではマルチ除去・土寄せ作業が省略できることから,作業労力の軽減や,作業の機械化と合わせて省力化による規模拡大効果も期待できるので,今後検討をすすめる予定である。

 また,今回試作した専用肥料は窒素に重点を置いた。しかし,サトイモの生育後期は芋の肥大とともにカリを多く吸収する。このため,サトイモの生育量を増加させ窒素の利用率を高めるには,カリ成分を緩効的に利かせる肥料を配合するなど窒素以外の肥料成分についても今後検討する必要がある。

主な引用文献・参考資料

●大森誉紀,谷泉忠幸,山竹定雄,宇高有美,山崎康男(2004)
 サトイモ栽培地域における硝酸性窒素による地下水汚染原因の推定,愛媛農試研報38,34~40.

●山口憲一,松本英樹,大森誉紀(2007)
 サトイモ産地における地下水の硝酸性窒素汚染とその年間変動について,愛媛農試研報40,5~9.

 

 

「ダブルクイック」の茶に対する芽出し肥としての施用効果

チッソ旭肥料(株)  富士営業所
技術顧問 岩橋 光育

Introduction

 静岡県では,施用窒素の溶脱による周辺水系の汚染防止を目的に,2005年3月に茶の施肥基準を改定し,年間施用窒素量の上限を2010年までに54kg/10aから40kg/10aに削減することとした。これに伴い,県内JAの施肥設計も,春肥・芽出し肥への重点化(年間窒素の40~50%)と秋肥の施肥量の削減(年間窒素15~20%)が顕著になっている。

 筆者らが2007年12月,茶園のうね間の土壌分析(58ほ場)を行った結果,無機態窒素濃度が平均5.6mg/100g(2.4~10.2mg)と少なく,冬期の土壌中での養分が以前に比べ少なくなっていることが認められた。このことから,翌春期の最初に吸収されるべき根周辺の土壌中無機態窒素の不足と,それに伴う一番茶の吸収窒素の低下が懸念される茶園が少なくないと推測された。
 県内においては,従来から一番茶の高品質化を目指して,春肥に速効性肥料が利用され,特に芽出し肥として「あさひVポーラス」が施用されることが少なくなかった。しかし,あさひVポーラスが諸般の事情により2008年3月に製造中止となったことから,その代替品としてブリケット製法による溶解性に優れた「ダブルクイック」(商標登録申請中)の販売が開始された。

 そこで今回,本肥料の溶解特性と芽出し肥としての施用が,一,二番茶新芽の生育,収量及び品質に及ぼす効果を確認することを目的に試験を行ったので報告する。

2. Testing Method

1)ダブルクイックの溶解と土壌中の移動特性

(1)散水によるダブルクイックの溶解(崩壊)・流出特性

 ネット上で散水に伴うダブルクイックの溶解(崩壊)・流出状況を調査した。図1に示したように,10cm角程度のポリエチレン製30メッシュネット(オープニング760μm)上に容積100mLの採土円筒(内径5.0cm,高さ5.1cm)をセットし,円筒の底に3種の肥料(あさひVポーラス,ダブルクイック,硫安)をN113mg(57.6kgN/10a)を置いた。円筒上部から22,43,86,130mL(散水量22mLは降雨量11mmに相当)散水した後,直ちに70℃で乾燥・秤量し,ネット上の残存量から流出量を計算した。(試験室温26℃,散水処理水温度25℃)

(2)散水による土壌中無機態窒素の移動

 ダブルクイック施用後の散水に伴う土壌中の無機態窒素の移動状況を調査した。
 採取した未耕地の赤黄色土を風乾後,2mmの篩にかけ,供試土壌(土性:LiC,pH5.4,ECO.04mS/cm)とした。

 調整した土壌を土壌水分pF1.5に調整後,図2に示したように塩化ビニル製カラム(カラム長30cm,内径107mm)に25cmの厚さに充填し,カラム内土壌表層に3種の肥料(あさひVポーラス,ダブルクイック,硫安)をN518mg(57.6kgN/10a)施用した。

 カラム上部からまず100mL散水し,その後1時間毎に100mL追加し,あさひVポーラス施用カラムの下部からの流出液のEC測定を繰り返し,EC値が上昇を始めた段階で,散水を中止した(流出N量4~5mg,試験室温25℃,散水温度25℃)。処理後直ちにカラム中の土壌を5cmごとの5層に分割し,60℃乾燥後無機態窒素を測定した。

2)ー,二番茶新芽の生育,品質,生葉収量及び経済効果

 試験は,静岡市駿河区日本平ほ場(表層黒ボク土)の’やぶきた’成木園(昭和62年定植)で2008年に実施した。
 試験区の構成は表1に示したとおりである。芽出し肥として,あさひVポーラス(窒素・リン酸・加里:16(アンモニア態窒素13.5,硝酸態窒素2.5) -7-12),ダッブルクイック(窒素・リン酸・加里:16(アンモニア態窒素14.5,硝酸態窒素1.5) -6-10)及び硫安(窒素:21)を供試した。施用時期は2008年3月24日,窒素施用量は農家慣行と同様9.64kgN/10a,処理区の規模は1区36㎡,2反復で実施した。

 調査項目は,枠摘み調査(20×20cm,1区6ヶ所)による一,二番茶新芽の生育と成分および生葉収量とし,新芽については,乾燥後,近赤外分光光度計によって全窒素,遊離アミノ酸,テアニン,粗繊維,タンニン,カフェインを測定した。

Results and Discussion

1)ダブルクイックの溶解特性

(1)散水によるダブルクイックの溶解・流出

 茶園に施用された肥料は,土壌表層の水分や散水により溶解し,土壌中へと移動する。一方,施用部位であるうね間土壌には,整せん枝残渣物が混在しているため透水性が良好なほ場が多く見られる。そこで,ダブルクイック施用後の散水による溶解と流出状況の把握を目的として試験を実施した。
 図3に散水による供試肥料のネット上での溶解(崩壊)・流出試験の結果を示した。
 ネット上からの各肥料の流出率をみると,11mmの散水(降水)では,あさひVポーラス区91%,ダブルクイック区82%,硫安区57%であるが, 22mmでは各々97%,96%,90%であった。

 また,県内の主茶産地である牧の原(菊川市)における4月の平年降水量は220mm(降水日数10日)である。これらを勘案すると,芽出し肥施用後,1回の降雨であさひVポーラス,ダブルクイックは95%以上,硫安でも90%が土壌表面で溶解(崩壊)すると推定される。

(2)散水によるカラム内土壌中の無機態窒素の移動

 図4に散水によるカラム土壌中の無機態窒素の移動結果を示した。130mmの散水によるカラム中の各土壌層への無機態窒素移動を上層部(0~10cm)と下層部(15~25cm)に分けてみると,あさひVポーラス区では上層部に348mgN(全体量の69%),下層部に82mgN(同16%),ダブルクイック区では上層部に377mgN(全体量の75%),下層部に47mgN(同9%),硫安区では上層部に430mgN(全体量の85%),下層部に17mgN(3%)であった。また,上層部土壌中の無機態窒素成分はほとんどアンモニア態窒素であるのに対して,下層部では硝酸態窒素の多いことが認められた。このように散水に伴う無機態窒素の下層部への移動が一番速いのは,あさひVポーラスであり,次にダブルクイック,硫安の順であった。この原因としては,各肥料の溶解性の違いや硝酸態窒素の含有量の差などが考えられる。

 今回のカラム試験結果および牧の原の4月の平年降水量(220mm)から,4月上旬に芽出し肥として施用したあさひVポーラスやダブルクイックは,4月末には茶の根が多く存在する表層から30cm程度までの部位に到達し,順次吸収されるものと推察される。

2)ー,二番茶新芽生育,品質,生葉収量および経済性

(1)ー,二番茶新芽の生育

 表2にー,二番茶新芽の生育調査結果を示した。一番茶では,新芽重は硫安区100に対しあさひVポーラス区は108と高い値を示し,次にダブルクイック区105であり,あさひVポーラス,ダブルクイックの施用による新芽重の増加傾向がみられた。他の新芽数,摘芽長及び百芽重においても同じ様な傾向が認められたが,その差は小さかった。二番茶新芽調査では各項目ともに処理間の差は明確ではなかった。

 中村3)は,芽出し肥として一番茶摘採の27日前にあさひVポーラスを施用した場合,新芽重が硫安区に比べて一番茶で14%,二番茶で13%増加することを認めている。小西ら4)は,冬期,早春期,春期のアンモニア態窒素の施用による一番茶新芽への移行などを検討し,早春期施用の窒素が他の施周期に比較し,一番茶新芽の生育に大きく寄与することを認めている。
 今回の試験でも,溶解が速く,かつ土壌中での移動が速い硝酸態窒素を含有する速効性肥料は,春肥や芽出し肥の早期の施用と同様な効果により一番茶新芽の生育に寄与するものと推察された。

(2)ー,二番茶新芽の成分分析結果

 表3にー,二番茶新芽の成分分析結果を示した。新芽の全窒素含量は,一番茶新芽では硫安区に比べてあさひVポーラス区,ダブルクイック区で若干増加する傾向が認められた。二番茶新芽では,ダブルクイック区の全窒素,遊離アミノ酸濃度が他区に比べて高い傾向が認められたが,その原因は不明である。

(3)一,二番茶生葉収量

 表4にー,二番茶生葉の収量調査結果を示した。一番茶の10a当りの生葉収量は,硫安区364kg(指数100)に対してあさひVボーラス区は389kg(指数107),ダブルクイック区は379kg(同104)であり,硫安に対してあさひVポーラス,ダブルクイックの施用によって生葉収量が増加傾向となった。
 二番茶では,硫安区100に対してあさひVポーラス区は102,ダブルクイック区103であり,一番茶ほどには硫安に対してのあさひVポーラス,ダブルクイックの施用による生葉の増収は認められなかった。

 筆者は前報1,2)において,芽出し肥としてのあさひVポーラス施用が硫安より生葉が増収することを報告したが,今回の試験でも同様な効果が認められた。

(4)ダブルクイック施用に伴う経済効果試算

 表5に10a当たりの売上高と施用効果試算を示した。各肥料の施用効果を硫安区を基準にみると,10a当りのー,二番茶荒茶合計売上高はあさひVポーラス区で硫安区に比べ23,059円増,肥料代を差し引いても17,987円の収入増であった。
 一方,ダブルクイック区での売上高は硫安区に比べ15,369円増,肥料代を差し引いても9,657円の収入増であった。このように,溶解性に特性をもっ肥料を芽出し肥として施用することにより収入の増加傾向がみられた。

 一般に摘採の適期は出開度70%程度(佐波5))とされているが,今回の調査時の新芽の出開度が一,二番茶共に0%と前倒しで調査を行ったことを考慮すると,一般のほ場では収量,収入ともに更なる増加が推察される。

Summary

 近年の秋肥窒素施用量の削減に伴う翌春期の最初に吸収されるべき根の周りの冬期の土壌中無機態窒素の不足,それに伴う一番茶の窒素吸収量の低下が懸念される茶園が少なくないと推察される。そこで,溶解性に特長を持つダブルクイックの芽出し肥としての施用が,一,二番茶新芽の生育,品質および生葉収量に及ぼす効果を確認することを目的に試験を行った。得られた結果は以下の通りである。

1)施用したダブルクイックは20mmの散水で95%以上溶解する。

2)カラム中の土壌表面に施用したダブルクイックは130mm程度の散水で含有窒素の9%が下層(15~25cm)に移動し,その多くが硝酸態窒素であった。

3)一番茶新芽の新芽重は生葉収量と同様あさひVポーラス,ダブルクイックの施用による増加傾向がみられたが,二番茶新芽では明確でなかった。

4)一,二番茶新芽の成分分析では各成分とも処理区間で一定の傾向は認められなかった。

5)一番茶生葉収量は硫安区100に対してあさひVポーラス区107,ダブルクイックは104と増収効果がみられたが,二番茶では定かでなかった。

6)ダブルクイックの芽出し肥施用により荒茶売上収益は硫安施用に比べ肥料代を差し引いても収入増が認められた。

5. cited references

1)岩橋光育:農業と科学,1,7~9(1992)

2)岩橋光育:農業と科学,1,10~14(2006)

3)中村茂和:農業と科学,4,6~9(2003)

4)小西茂毅:土肥誌,49,221~225(1978)

5)佐波哲治:茶の栽培と利用加工,(株)養賢堂,142(1994)